新人看護師パワハラ自死事件 -3

By | 2020年10月5日

 『新人看護師パワハラ自死事件』のご報告とお願い

       弁護士 白神 優理子(八王子合同法律事務所)

(1)事件の概要と提訴したご両親の思い

釧路赤十字病院で勤務していた新人看護師の亡村山譲さんのご両親が原告となり、譲さんの自死は仕事上のストレスが原因であることを主張して、労災補償保険の給付申請を不支給とした労基署の処分を取り消すよう求めた裁判が続いています。被告は国です。担当弁護士は私の他に、尾林芳匡弁護士、和泉貴士弁護士です。
譲さんは、職場の医師や先輩看護師・同僚から質問攻め・無視・罵声・人格否定発言・一人だけカリキュラムを次の段階に進ませてもらえないなどの行為を繰り返され、その下で数々の業務上のミスを繰り返し、2013年9月15日、実家車庫内で自死しました。入職してわずか半年のことでした。
2018年4月24日に釧路地方裁判所に提訴したご両親の思いは、「夢を持って職場で働き始めた新人の労働者が、たった半年で自死に追い込まれるような労働環境を変えたい。」「親である自分よりも先に子どもに死なれてしまう。こんな辛いことはない。自分のような親がもう生まれないようにしたい。それだけです。」というものです。

(2)譲さんの遺書

譲さんが残した遺書には仕事での苦しみが綴られていました。全文を掲載します。
「入職して6カ月が経ちました。この6カ月、注射係しかできませんでした。その注射係すらまともにできませんでした。異常な緊張が続き、6月にはプロポフォールのインシデント、手術台のロックを外してしまうアクシデントを起こしてしまいました。本当に申し訳ありませんでした。毎日、胃痛と頭痛に悩まされ、夜中に目が覚めてしまう日々が続きました。集中力に欠けて、ミスを連発し、言われたことを直せないでいました。A先生に「お前はオペ室のお荷物だな」と言われて確信しました。成長のない人間が給料をもらうわけにはいきません。本当に申し訳ありません。」

(3)業務が原因での精神障害発症・自死であること

譲さんが残したノートや手帳のメモ、労災申請前に行った証拠保全手続や裁判を開始してからの文書送付嘱託などで入手した資料、関係者の方からの情報提供をもとにすると、譲さんには多くの業務上のストレスが認められます。「複数の仕事上のミス」「医師や指導看護師からの詰問・人格否定発言・叱責・人間関係からの切り離し・ミスへのペナルティ」などです。
これらはいずれも「精神障害の労災認定基準」に記載されている「心理的負荷の出来事」に当たるものであり、譲さんの自死は業務上のストレスが原因であると認められるべきものです。現在、この点を裁判所で主張しているところです。
これに対して被告は、「仕事上のミスは全体として一個で、重大ではなくストレスの重さも軽い」「医師・看護師による叱責・パワハラ発言はなかった」などの反論をしています。

(4)支援のひろがりと皆さんへのお願い

現在、地元の医労連の皆さんなどをはじめ多くの方が支援の輪を広げて下さっています。署名は2万9475筆も集まっています。
ご両親は勇気を出して実名を明かし、顔も出して、日赤病院前でのビラ配布もしており、職員から「頑張ってください」との声掛けももらうようになりました。
皆さんにお願いです。署名へのご協力と共に、職場状況についての証人を探しています。医療者の方の世界は狭いそうで、思わぬところから情報提供をいただくこともできております。SNSにも公開しておりますので、ぜひこの問題をお広げください。
問題の根本には地域医療の危機的な現状があることもあわせて学んでいます。訴訟での勝利を目指すと共に、事件を通して問題意識を広げることによって、より良い職場づくりに繋げていきたいと決意しています。