アスベストセミナーを開催しました。

By | 2020年10月5日

アスベスト被害の根絶と補償めざして

2020年9月26日午後、札幌市内で「アスベストセミナー」が開催され、アスベスト対策に関わる行政や研究機関、市民団体の関係者など48人が参加しました。主催はアスベスト相談会に関わってきた団体(建交労道本部、道民医連、北商連、建設アスベスト訴訟被害弁護団、いの健道センター)が実行委員会を作って実施しました。二つの講演の要旨を報告します。

 大気汚染防止法『改正』と残された課題

             外山 尚紀 氏 (NPO法人東京労働 安全衛生センター)

アスベスト(石綿)そのもののリスクはたくさんあります。石綿関連作業による石綿関連疾患の労災認定者が1万人を超え、建物暴露による被害は1%程度としつつ、解体現場での石綿の処理がずさんで住宅街でも環境暴露による石綿被害が広がっています。
環境省は「大気汚染防止法」を改正し、①規制対象をレベル3の石綿含有建材まで含む、②事前調査(解体工事)の信頼性を確保する、③隔離等をせずに除去作業を行った者への直接罰の創設、④元請け業者に除去作業等の結果を発注者への報告を義務付け、⑤都道府県による立ち入り調査対象の拡大が行われることとなりました。これらは総じて前向きな「改正」となります。
しかし、残された課題として、①調査・分析・検査の信頼性の確保に課題が残る。調査者となる建築物石綿含有建材調査者(公的資格)は現状2千人ほどで、必要とされる30万人には程遠い事、分析者などの講習の課題も残されている。
②除去中の「気中濃度測定義務」がなく、海外の規定と比してずさん。③所有者が通常使用時の建物調査を行うことを努力義務化し、国と地方自治体の支援を明記すべき点が欠如している。④除去業に対するライセンス制度が明記されずILO条約に違反している点などがある。「改正」法は2021年4月から施行されますが、アスベスト関連疾患の予防と補償・救済に向けて対応を強めることが大切です。     以 上

 アスベスト被害と医療機関の役割

             細川誉至雄 氏(勤医協札幌病院・医師)

石綿関連疾患の中皮腫の死亡者が25年間で3倍の年間1,500人と増加し、中皮腫については労災認定制度も定着してきました。
一方、肺がんは日本人の死因の第1位で、年間12万人以上が罹患し約7万人が亡くなっていますが、石綿肺がんとして労災認定されるのは0・4~0・6%と極めて低い現状にあります。
最近の石綿肺がんに関する日本の論文を見ても肺がんに占める石綿肺がん(職業性)は9・4~12・8%くらいと報告されています。
WHOは「クリソタル・アスベスト2014」で疫学的にみてクリソタル暴露では肺がんは中皮腫の約6倍とも報告されています。 こうした現状をどう考えるのか?私見として5点指摘します。
①現状の医療制度では一般病院は保険診療で精いっぱいでマンパワーの面でも労災に関わる余裕がない。 ②多くの医師は中皮腫については労災か救済法かは別として「補償」されると理解している。しかし、肺がんは喫煙の影響が強いと考え、それ以上踏み込まない。
③アスベスト疾患を診療する指定医療機関を増やす取り組みが必要。
④現在アスベスト小体測定は保険診療外で費用は自己負担となっている。肺がんと診断された場合、職業歴がある場合や胸膜プラークを認めた場合、保険請求できるようにする。
⑤行政への働きかけと同時に、アスベスト相談会などを通じてアスベスト疾患の啓蒙活動が重要となる。