第3回オンライン講座
「精神障害の労災認定基準」について
過労死弁護団 岩井 羊一 弁護士
2月5日、いの健北海道センターは、現在厚労省で見直し作業が行われている「精神障害の労災認定基準」について、過労死弁護団の岩井羊一弁護士を講師に第3回オンライン講座を開催しました。
「精神障害の労災認定基準~認定基準成立の経過と問題点、そして見直しの方向性~」と題して講演を行った岩井羊一弁護士は、過労死弁護団の一員として愛知県で活動をしています。
「過労自殺」が「脳・心臓疾患死」を上回る
「過労死」といえば、長時間労働により、脳・心臓疾患を発症し亡くなる事例を想像しますが、2019年より過労による精神障害の「自殺」の支給決定件数が、脳・心臓疾患による死亡数を追い越しました。
岩井弁護士は、かつて精神疾患は、労働者の内面的な問題として労災とはならない時代が続いていましたが、ストレスが労働者の心を壊し、自殺にまで追いやることなどが明らかになってくる中で、うつ病などの精神疾患が労災として認められるようになったとして、1990年代の終わりから2000年代入り精神障害による労災の請求件数が急増したことに対応するために、精神障害等の判断指針、精神障害の認定基準などが策定されてきた経過について述べました。
岩井弁護士は現在の精神障害の労災認定基準の問題点として以下の3点を述べました。
改善されるべき認定基準
一つは、精神障害を発症したとされる6か月前の出来事について認定基準では考慮されるが、発症後の病状の増悪については、原則考慮されないことです。発病後弱っているメンタルが、さらにストレスにさらされても労災とされないのは不合理です。
考慮されるべき労働者の固有性
二つ目は、「特別雇用枠」など障がいを持つ人や、新人労働者などが被る負荷について、その固有性が評価されていないことです。障がい者雇用は企業の義務になっており、精神障害を持っている人も雇用されていますが、その人のストレス耐性などは考慮されていません。また新人労働者についても、経験のある労働者に比べ、初めて直面する事態にストレスを感じやすいと思われますが、「同種労働者」との比較だけで新人という固有性が考慮されていませんと画一的な認定基準を批判しました。
時間外労働160時間超 高すぎるハードル
三つめは時間外労働時間数のハードルが、脳・心臓疾患に比べで高すぎることです。
脳・心臓疾患では100時間を超える時間外があれば労災認定されますが、精神疾患の場合は、発生前160時間、2カ月前120時間、100時間プラス強いストレスを感じた出来事という具合に、労災が認められるハードルが高くなっていると述べ、過労死弁護団として、65時間を超える時間外労働があった場合、脳・心臓疾患や、精神障害についても発症の危険性が高まるため認定基準を改正すべきと訴えています。
またこのほかにも、長い通勤時間が睡眠時間を削ること、現行の負荷評価は発症前6ケ月ですが、最低でも1年前とすべきなど、新たな認定基準に向けての提案がなされました。
意見交換では、新人や、転勤・出向などで新たな仕事を担わされる労働者については一般労働者よりストレスが過大になるのではないか、等の意見が出されました。
またこの内容が、直後に開催された厚労省の「専門検討会」でも議論されるなど、全国的な議論をリードする講座となりました。
今回のオンライン講座は、近年精神障害の労災申請件数が急増している中での認定基準の見直しということもあり、非常に関心の高い内容でした当日はオンライン・会場を合わせて45人の参加があり、道内のみならず、福岡、愛知、石川、徳島など全国から視聴がありました。