最高裁が国と建材メーカーの責任を認める判決
国が被災者に謝罪、給付金支給の基本合意成立
長野 順一 弁護士 (北海道建設アスベスト弁護団:事務局長)
1 最高裁判決、国との基本合意
2021年5月17日、最高裁は、首都圏建設アスベスト神奈川第1陣をはじめとする4つの建設アスベスト訴訟について国及び建材メーカーらの責任を認める判決を言い渡しました。
そして、この判決を踏まえて、被害の全面救済へ向けて、国と原告側(建設アスベスト訴訟全国連絡会)との間で、訴訟の和解解決と未提訴者を含めた救済についての「基本合意」が成立するなど、大きな動きがありました。
2 一人親方等も救済、ただし屋外作業者は対象外
判決は、まず国の責任について、1975年(昭和50年)から2004年(平成16年)までの間、国は、事業主に対し、建設作業従事者に防じんマスクを着用させる義務を罰則をもって課すとともに、建材への適切な警告表示を義務付ける義務があったにもかかわらずこれを怠ったとして、労働者だけでなく一人親方や中小個人事業主に対しても、国の賠償責任を認めました。
とりわけ、今回、最高裁が一人親方等に対しても責任を負うことを明確にしたことは、画期的な意義を有するものといえます。
3 メーカーの責任を認める
判決は、建材メーカーについても賠償責任を認め、主要原因建材について一定以上の高いシェア有するメーカーは、共同不法行為者として、連帯して責任を負うとの判断を示しました。この点は、被災者救済に大きく道を開いたものということができます。
4 総理大臣の謝罪と与野党の動き
さらに、最高裁判決を踏まえて、被災者救済へ向けて大きな動きがありました。
判決の翌日である5月18日午前、首相官邸において菅義偉総理大臣が建設アスベスト訴訟原告らと面談し、「最高裁判決で国の責任が認められたことを厳粛に受け止め、被害者及びその遺族に深くお詫びします。」との謝罪の意を表明しました。
また、判決を受けて「与党建設アスベスト対策プロジェクトチーム(与党PT)」から「建設アスベスト訴訟の早期解決に向けて」と題するとりまとめ文書が発表され、①建設アスベスト給付金制度(仮)を創設する、②メーカー責任を認めた最高裁判決を受けて建材メーカーの対応の在り方について与党PTで引続き検討する、との表明がなされました。
5 基本合意書の調印
また、5月17日夕方には、田村厚生労働大臣と原告(建設アスベスト訴訟全国連絡会)との間で
①被害者及びその遺族の方々に謝罪すること、②係属中の訴訟については、原告側と合意した統一的な和解基準により和解すること、③未提訴の被害者についても、被害補償のための給付金(仮称)を支給する制度を法制化すること(給付金の額は②と同額。)、④建設作業従事者の石綿被害を発生させないための対策、石綿関連疾患の治療・医療体制の確保、被害者に対する補償制度について建設アスベスト訴訟全国連絡会と継続的に協議を行うこと、を内容とする基本合意書の調印が行われました
これにより、国との間で全国の訴訟が和解解決に進むことになるとともに、被災者に給付金を支給する制度が設けられることになりました。
6 アスベスト被害者の全面救済と被害の根絶に向けて
基本合意において、未提訴被災者が裁判することなく補償を受けられる制度(給付金制度)の創設が、明記されたことは画期的であり、このような制度が立法化される意義は極めて大きいと思います。しかし、現段階ではあくまでも国との間での合意であり、最高裁で加害責任が認められた建材メーカーはこの制度に加わっていません。
被害の全面救済のためには、国が約束した給付金制度を、建材メーカーも拠出する「補償基金制度」として拡充し、完全な被害者救済制度として法制化することが必要です。
全国の建設アスベスト訴訟の原告団・弁護団は、引続き、訴訟等を通じて建材メーカーに対して被害者に対する責任を果たすよう求めるとともに、被害者の全面救済とアスベスト被害の根絶のために、さらに闘いを続けることを決意しています。