石綿(アスベスト)の飛散による健康被害なくすため、「大気汚染防止法」が2021年4月から改正され、規制が強化されます。アスベスト患者の診断・治療にあたっている細川誉至雄理事長(医師)に概要を投稿してもらいました。
2020年9月に札幌市内で行われたアスベストセミナーで東京労働安全センターの外山尚紀氏による大気汚染防止法(大防法)の改正についての講演が行われ、当センターにゅーす10月号で改正事項の内容を紹介しました。
外山氏によれば総じて前向きな改正だが残された課題、主に4点が指摘されました。いまなぜ大防法改正なのか、改めて石綿による健康被害の視点で考えてみたいと思います。
大防法はもともと大気環境を保全することで国民の健康を保持、生活環境を保全するため昭和43年に制定されました。人の健康に被害を生じる恐れのある物質を「特定粉じん」、それ以外を「一般粉じん」として定め、特定粉じんとして現在石綿が指定されています。
大防法では建物の解体、補修等を行う場合は法律に定められた基準(粉じん対策)を遵守する義務があり、違反すると都道府県知事等は基準の適合や一時停止を命ずることができます。大気汚染ではかつて四日市喘息等がありましたが、今や石綿による健康被害が最大の問題となっています。現在職業がんで新たに労災補償を受けている人は年間約1,000人ほどですが、ほとんどが石綿(中皮腫や肺がん)によるものです。しかも年々増加しています。
石綿の約9割が建築物に使用され、一般住宅も含めまだ約半数が解体されず残っています。環境省は平成25年(2013年)に法改正を行い石綿含有建材の使用状況についての工事「事前調査」の義務付け、届け出義務者の元請け業者から発注者への変更等の飛散防止対策の強化を行いました。 しかし5年が経過して施行状況をみると、事前調査における石綿含有建材の見落としや、これまでの規制対象ではなかった石綿含有形成板等(いわゆるレベル3建材)についても、不適切な除去を行って石綿が飛散する例が相次ぎ、大防法の抜け穴問題が多々発生しました。 特に形成板は一般住宅も含め最も多く使われていたにも関わらず規制されていなかったので、改正で規制の対象となるのは大きな進歩です。 石綿による被害を根絶するためにも改正法を実効性のあるものにしていかなければなりません。施行まで1か月しかなく準備が急がれるところですが、法律遵守を管轄する都道府県等は役割が大きくなり、石綿障害予防規則(労基法)との関連もあるため労働局との密な連携も必須となります。コロナ禍の中で自治体は準備に間に合うのか、いささか気がかりですが引き続き動向を注視していきましょう。