逆転で労災認定
2016年2月、商業施設(帯広市内)の製菓店で働いていたH氏(当時19歳・男)は、休憩中に自家用車内で一酸化炭素(CO)中毒で死亡しました。遺族が申請した労災補償は不支給とされましたが、国の労働保険審査会は先月、不支給とした帯広労基署の決定を取り消しました。
H氏は、施設の駐車場内の車内で昼食休憩中でしたが、当日は大雪の為、車内で一酸化炭素(CO)を吸い、亡くなりました。 遺族は、事業場には休憩室が無く、自家用車内で休憩を余儀なくされていたとして、帯広労働基準監督署に労災申請し、「帯広労連」を通じて、いの健道センターとつながりました。その後、不支給となったため、弁護士面談を通じて審査請求を行いました。棄却後、再審査請求を行い、ダメなら裁判も辞さないとしていましたが、1月26日付で労働保険審査会は、原処分を取り消しました。
急性一酸化中毒で死去した Hさんの終了事例
2018年1月26日、労働保険審査会は、帯広市内の商業施設内で働いていたHさんの急性一酸化炭素中毒のための死亡が業務上の事由によるものと認め、労働基準監督署長が行った遺族補償給付等の不支給処分を取り消す裁決を下しました(弁護団は長野順一弁護士、佐々木潤弁護士、瀨戸悠介弁護士、及び当職)。
Hさんは、業務の休憩時間中、商業施設の駐車場に停めていた自家用車内で休んでいたところ、当日の大雪によってマフラーが塞がれ、車内に流入した排気ガスによって急性一酸化炭素中毒を発症し、死去されました。
被災者の死亡が業務上の事由によるものと認められるためには、①「業務遂行性」及び、②「業務起因性」の要件が認められる必要があります。①「業務遂行性」とは、労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあることをいい、②「業務起因性」とは、労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあることに伴う危険が現実化したものと経験法則上認められることをいいます。
労働基準監督署長は、Hさんが、職場である店舗を出て休憩に入った時点で事業主の支配下を離れたとして、①業務遂行性を認めず、遺族補償給付等を不支給としました。この結果に対して、ご遺族からご相談を受けた弁護団が代理人として加わり、労働基準監督署長による不支給処分の取消を求めて、労働者災害補償保険審査官に対する審査請求を行いました。
弁護団は、①休憩時間中であっても、事業主が本件駐車場の利用料を負担していること等から、Hさんは事業主の施設管理下(支配下)で被災したものであり、業務遂行性が認められることを主張しました。また、②本件事業場には休憩施設が設けられていなかったため、Hさんには自家用車内以外に休憩場所がなかったこと、及び悪天候時の駐車場所を上司から指定されていたこと等に基づき、本件事故は事業主の支配下にあることに伴う危険が現実化したものであって、業務起因性も認められるとの主張を行いました。
これに対して、労働者災害補償保険審査官は、本件事故に①業務遂行性があることは認めました。しかし、②業務起因性については、本件傷病が施設やその管理の欠陥に起因したとは認められず、また自家用車内の休憩行為は業務付随行為とも認められず、さらには天災地変に際して災害を被りやすい業務上の事情も認められない等として否定し、労働基準監督署長の結論を維持しました。
ご遺族及び弁護団は、この結論を不当として、労働保険審査会に対して再審査請求を行いました。その結果、労働保険審査会は、当方の上記主張のとおり、本件事故に①業務遂行性があることを認め、かつ②業務起因性があることを否定し得ないとして、労働基準監督署長が行った遺族補償給付等の不支給処分を取り消しました。
再審査請求でも結論が変わらない場合には、国を被告として取消訴訟を提起しなければなりません。争いを司法の場まで移すことなく、行政段階で終えられたことは、非常に喜ばしい結果であると受け止めています。また、再審査請求で労働基準監督署長の不支給処分が取り消されることは珍しく、その意味においても本裁決は大きな意義を有していると考えています。
さっぽろ法律事務所
弁護士 安彦 裕介