ビルメン労働者の労災認定、瀨戸悠介弁護士の報告です。

By | 2017年7月1日

国が、訴訟中に札幌中央労働基準監督署が出した療養補償給付の不支給決定取消処分をいわゆる「打ち直し」をすることで支給決定をし直した事例

異例の「うち直し」で勝訴

ビルメンテナンスの労働者Sさんが2016年8月末に労災不支給決定について取り消しを求めて提訴した裁判が平成29年3月末、国自らが不支給決定を変更し、支給決定とする「打ち直し」をすることで解決しました。

3日に1度の24時間勤務

Sさんは、平成6年8月から、札幌所在のビル管理会社に勤めており、平成19年6月からは新聞工場の設備保守管理、機器運転監視等を行っていました。Sさんが管理をすることになった新聞工場は、平成19年7月から稼働したばかりで、Sさん以外に空調機器を操作できる同僚もいないため、Sさんは一人で湿度や温度等の情報採集や機器への情報の打ち込みをせざるを得ない状況が続きました。

Sさんの勤務時間は3日に1度の24時間勤務であり、仮眠時間は5時間となっていましたが、仮眠場所はパーテーションで仕切った程度で、室内の音は普通に聞こえる状況でした。しかも、毎日午前2時に必ず電力異常の警報が鳴り、午前4時ころからは輪転機のメンテナンスを行う業者が新聞工場を来訪することが頻繁にあるなど、警報音や対応のせいで仮眠もとれない状況でした。

労災申請と不支給決定

Sさんは上記の過酷な労働環境によって、平成20年7月、うつ病と診断されたため、会社に対し転勤願いと有給申請をしました。同年9月、Sさんは別のビル管理業務となりましたが、平成25年9月頃には月約174時間の残業をすることとなり、うつ病の症状が増悪したため、同年10月2日、病院に入院することになりました。Sさんは、このうつ病は労災だと考えて労災請求をしましたが不支給決定となり、審査請求、再審査請求でもこの判断が覆ることはありませんでした。

不払い残業代は認定

この間、Sさんは、平成27年2月2日、札幌中央労働基準監督署に対し、平成25年2月分から平成27年1月分の未払残業代の支払いを求める申告を行いました。すると、平成27年2月13日、札幌中央労基署は、コールセンターでの仮眠時間及び休憩時間は、全て労働時間だと認め、会社に対して是正勧告を出したのです。しかし、審査請求、再審査請求ではこの事実は無視され、平成28年2月24日、労災不支給が決まりました。Sさんは悔しい思いを捨てきれず、8月末に取消訴訟を提訴したのです。

3月、「処分の打ち直し」

その後、平成29年3月初旬、国の代理人から連絡があり「国が『処分の打ち直し』を検討している」と伝えられました。平成29年3月24日、札幌中央労基署副所長その外2名がSさんの下を訪れ、不完全な調査で不支給決定をしたことを謝罪しました。そして、同年4月4日、支給決定が出されたため、訴訟は取り下げにより終了しました。

「あきらめない」Sさんの粘りが勝利を招いた

国が訴訟中に処分の変更を行うことはとても珍しく、私を含めた弁護団でもとても驚く結果となりました。やはりSさん自身が審査請求や再審査請求の棄却の結果に諦めず、労基署に未払い賃金を申し出て是正勧告を勝ち取ったことで、国もこれ以上は戦えないと白旗を上げ、支給処分をしたのではないかと思います。 私自身もこの事件を通じてあきらめないことの大事さを教えていただけました。まだまだ解決していない点も残っておりますので、今後もSさんのために支援を続けていく所存です。

弁護士 瀨戸悠介(たかさき法律事務所)