吃音のある看護師の自死事件 勝訴し労災が認められました

By | 2020年10月30日

吃音でも、働き易い社会に

 吃音のある新人看護師の自死が労災不支給となったため、その取り消しを求めた裁判で、10月14日札幌地裁は「業務による負荷が原因だ」として労災を認めました。亡くなってから7年3ヶ月、提訴から3年余のたたかいでした。

 勝利報告集会

判決後、遺族と弁護士、言友会の仲間、過労死家族の会、医労連、いの健道センター、メディア関係者などが参加して報告集会が行われました。 安彦裕介・大賀浩一弁護士から判決文の報告がされ、参加者から喜びの言葉が続きました。
「北海道言友会」の南孝輔会長は「吃音の仲間は就職できなかったり、解雇されることもあり、判決で『自分たちも働く権利がある』と社会に使用者に主張できる根拠になる」と判決が確定することを求めました。
同様に家族を過労死で亡くし、裁判の傍聴支援を行ってきた家族の会からは、4人が次々と遺族の労をねぎらい勝訴を祝福しました。
参加者から贈られた「花束」を手にした遺族は、「長い間、たたかいを支えていただいた、弁護団、いの健道センター、家族の会、言友会の皆さんなど多くの皆さんに感謝します。息子に良い報告ができます」とあいさつしました。

 「控訴するな」の声を

報告集会では、判決は国が控訴すれば、第2審(札幌高裁)での争いになる事から、「控訴するな」の要請を法務省、厚生労働省、道労働局、札幌東労基署あてに期限の28日までに要請することが提案されました。 これに応えて、支援に関わった各団体・支援者は、国側の四者に対する「控訴しないでください」の「要請文」をFAXで送信する取り組みが始まりました。 いの健道センターのホームページへのアクセスも増え、賛同する取り組むが急速に広がりました。

 遺族が労働局等に要請

遺族は10月20日、道労働局と札幌東労基署に「要請文」を持参して届け、故人(長男)の友人などが短期間で集めた「要請書」793通をそれぞれに届けました。
遺族宛にはその後も被災した故人の友人たちから「要請したい」との声が届き、更に43通の「要請書」をFAXしています。

 国は控訴せず、労災が確定

国は控訴期限の10月28日まで、手続きを行いませんでした。札幌地裁判決が確定し、労災が認定されました。
遺族は「多くの皆さんのご支援に感謝します。過労死の無い社会になるよう、これからも努力します」と語っています。

吃音のある新人看護師の労災不支給取り消し判決について

安彦 裕介弁護士(札幌たいよう法律事務所)より概要報告を頂きました。

本年10月14日、札幌地方裁判所は、重い吃音を有していた新人看護師のAさん(男性)が、適応障害及びうつ病を発病し、就職してから僅か約4か月後に自死したことについて、これらが業務に起因して発生したものと認め、労働基準監督署長が行った遺族補償給付等の不支給処分を取り消す判決を言い渡しました(代理人弁護士は、当職と大賀浩一弁護士)。

ご遺族は、Aさんの発病及び自死について、病院における業務に原因があるとして労災請求を行いましたが、労働基準監督署長はこれを認めず、その後の労働者災害補償保険審査官に対する審査請求、及び労働保険審査会に対する再審査請求においても同じ結論が維持されたため、2017年11月に、裁判所への提訴に踏み切っていたものです。

Aさんは、患者に対して検査の説明を行う前に、指導看護師らに事前の説明練習を行っていたのですが、吃音による症状のためにこれをうまく果たせず、繰り返しの練習を余儀なくされていました(①)。また、この病院の就業規則には、採用後3か月間の試用期間の定めが置かれていましたが、試用期間経過後、同期の新人看護師が本採用される中で、Aさんは一人だけ試用期間を延長されていました(②)。さらに、吃音を有していたAさんは、病院の患者から、「別の看護師にしてほしい」、「何を言っていたのか分からない」等の苦情を受けていました(③)。

私たちは、これらの出来事によって、Aさんに強い心理的負荷が生じ、精神障害の発病及び自死に至ったと主張しました。これに対して、被告である国は、これらの出来事による心理的負荷は弱いものに過ぎなかったと主張したため、原被告間において、業務起因性の有無について全面的な争いとなっていました。

本判決は、上記①(説明練習等の指導)については、事前の練習は職務上必要なものであり、新人看護師に対する業務指導の範囲内のものであったとして、心理的負荷の程度を「弱」としました。他方、上記②(試用期間の延長)については、Aさんにおいて、示された課題につき水準に達することができずに解雇される可能性が、ある程度現実的に認識できる状態になったと認められるとして、心理的負荷の程度を「中」と認めました。そして、上記③(患者からの苦情)については、苦情の内容が、業務上重要な患者への説明内容や信頼関係に関するものであり、その数も少なくなかった上、Aさんの業務量や業務内容にも相応の変化が生じていたとして、心理的負荷の程度を「中」と認めました。
その上で、本判決は、Aさんについて、上記③による「中」の心理的負荷が生じていた状況に、上記②の「中」の心理的負荷、及び上記①の「弱」の心理的負荷が加わったものであり、全体的な心理的負荷の程度は、精神障害を発病させる程度に強度なものであったと認めました。これによって、Aさんの発病及び自死が、業務に起因して生じたものと認定され、労働基準監督署長の不支給処分が取り消されました。

この裁判には、被災労働者の方が吃音(流暢性障害)という障害を患っていたという特殊な側面があり、代理人弁護士としても、一般的な労災訴訟とは異なる視点が必要でした。吃音に悩む方々は、私たちが想像す

いの健ニュース 2020.11.1から転載