急性大動脈解離で死去されたAさんの労災支給決定

By | 2019年10月8日

    2014年9月に過労死されたAさんの労災請求が認められました。事案の概要と支給決定に至った経過について、担当した安彦裕介弁護士からの報告を掲載します。

        札幌たいよう法律事務所   弁護士 安彦 裕介

    本年7月、札幌東労働基準監督署長は、札幌市内の清掃・美装会社で働いていたAさんの急性大動脈解離のための死亡が業務上の事由によるものと認め、遺族補償給付の支給決定を行いました(代理人弁護士は、当職及び畑地雅之弁護士)。

    Aさんは、平成26年9月の明け方に、勤務先の倉庫で倒れているところを発見され、市内の病院に救急搬送されましたが、急性大動脈解離により死去されました。
Aさんは、死去直前1か月間の作業報告書の記載から、長時間の時間外労働に従事していたことが疑われました。しかし、Aさんのご遺族が当職らのもとに相談に来られた時点で、Aさんの死去から3年以上が経過しており、死去直前1か月より前の労働時間がわかる資料は、廃棄されてしまっていました。
    この点、脳・心臓疾患の労災認定基準では、長期間の過重業務について、「発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる」とされています。そのため、死去直前1か月間の労働時間のみしか確認できない場合は、1か月当たり80時間ではなく、1か月当たり100時間程度の時間外労働が認められなければ、労災の認定は否定される方向に向かってしまいます。
     Aさんの時間外労働時間は、死去直前1か月間の作業報告書の記載から計算する限りでは、月100時間までには達していませんでした。しかし、この作業報告書には、当日の作業現場における労働時間しか記載されていませんでした。当然ながら、Aさんは会社から作業現場に赴き、作業終了後には会社に戻っていたのですから、往復の移動時間があるはずです。また、会社から作業現場に向かう前、あるいは作業現場から会社に到着した後も、事前の準備作業や、事後の片付け作業を行っていたはずでした。

    これらのことから、会社と各作業現場との間の距離、及び往復の移動に要する交通時間を算出し、作業現場における労働時間に加算したところ、Aさんの労働時間は、当職らの計算において月100時間を超えていました。また、休憩時間の長さに関して、当職らの考えと会社の主張が違っていたこと等から、事前の準備作業や事後の片付け作業に要する時間についても加算すべきことを合わせて主張しました。
これらの結果、札幌東労働基準監督署長は、Aさんの移動時間や事前・事後の作業時間を含めて、発症前1か月間に100時間を超える時間外労働が認められるとして、遺族補償給付を支給する決定を行いました。
証拠の散逸や廃棄によって事実の立証ができなかった場合には、ご遺族に無念や悔しさの感情がより強く残ってしまうことになりかねません。本件では、残っている限りの証拠において請求を認めてもらうことができ、安堵できる結果となりました。