『過労死ゼロの社会を』
川人 博 弁護士が基調報告
11月22日札幌市内で、厚生労働省主催の「過労死等防止対策推進シンポジウム」が開催され、経営者、会社員、公務員など149人が参加しました。基調講演、体験報告、取組事例報告などから学びの多いシンポジウムとなりました。
「女工哀史」と過労死
冒頭、紡績工場の女工の「過労死」に触れ、日本では明治・大正・昭和初期にも過労死は発生していたとし、今日につながると指摘しました。
戦後の新憲法下で一日8時間の労働基準法が制定されましたが、高度成長下で長時間労働が経営システムに組み込まれ、今は「生き残り」をキーワードに過労、ストレスが広がり、過労死の認定者は年間800件、うち死亡事案は200件。
しかし、労災認定者は過労自死事案の「氷山の一角」。自殺統計からみると、労災認定者は推定で4~8%に過ぎないとしました。
留意すべき過労死事案
最近の過労死の事例として、①若年労働者の問題、②管理職の問題、③裁量労働制の労働者、④看護師の過労死、⑤海外出張者、⑥高齢者・障害者の過労死などの事例を報告しました。
「過労死」検討の課題
過労死対策を考えるうえでの課題として次の5点を提起しました。
①「過労死が発生する職場では業務不正も発生することが多い」として、足元から企業 の健全な発展を目指すこと。
②「たかが労基法違反」との意識を払拭することが必要として、適正な労働時間管理と業務量と人員配置に留意することに会社役員・幹部は特段の配慮をすることが不可欠。
③「ハラスメントを生む土壌を無くすこと」が重要。上司自身が疲弊し、部下へのハラスメントの要因になっていないか?と問いかけ、かつての日本軍の暴力・いじめの構造と指摘された「抑圧の移譲」が引き継がれていないかと問いかけました。
④近年は「お客様は神様」と強制され、客も労働者も人間であるという当たり前のことが忘れられていると警鐘を鳴らしました。
⑤最後に労働組合の役割の重要性を指摘し「全職場で労使の話し合い」をと呼びかけ、特に勤務時間に「インターバル規制を」と強調しました。インターネットの普及で24時間メールでの指示が出る状況について、フランスでは「業務メールを見ない権利」が法制化し、「オフの時間を確保」していると報告しました。
多くの過労死事件を担当され、過労死等防止対策の中心メンバーとして活躍している川人弁護士の講演は各層からの参加者に「過労死ゼロ」に向けて多くの示唆を与えてくれました。
『取り組み事例報告』
北大生協の労働安全衛生活動
岸本 敬一 北海道大学生生活協同組合 専務理事
〈北大生協の概要〉
広い大学の構内に食堂や店舗など34の事業所があり、毎日2万人が利用しています。1万人は食堂利用者です。飲食部門は人手不足が続き、残業も増えがちで労働時間管理にも苦労しています。
〈衛生委員会の概況〉
正職員は47人、パート等が279人、アルバイトが188人で、約600人の職員の衛生管理を委員会が担っています。構成は統括責任者の専務理事と産業医、委員は労組から3人とオブザーバーなど合計8人です。毎月実施しています。
〈活動内容〉
① 労働時間の調査
毎月、全職員の時間外を把握しています。45時間と80時間を超える場合は色分けで表示され、その人の業務内容の見直しや体制の整備を検討します。
② 労災対策
各職場内、通勤事故での転倒や骨折の未然防止を呼び掛けています。冬場が大変です。また、食堂でのやけどやケガ、腰痛対策が重要です。
③ 休日労働の把握
労組に報告し、振替休日を与えることにしています。しかし月内消化が困難です。
④ 職員健診とストレスチェックについて産業医に対応してもらっています。
⑤ 職場巡視
毎月、巡視しています。年に1回はすべての職場を回る事にしています。空調・湿度・水漏れ・やけど対策などを基本に点検し、報告書を作成し、改善する場所を写真に収めて管理者に知らせています。
⑥ その他、
メンタルヘルス研修会(所属長向け)、弁護士による働くルールの講演会(パートも含む)、インストラクターやカイロプロティスクによる腰痛や肩こりなどの予防対策などを行っています。
みんなで働きやすい、健康で安心できる職場を作ることに努力しています。
施策説明
「最近の労働基準行政の動き」をテーマに北海道労働局労働基準部監督課長の戸高正博氏が報告しました。
北海道の労働時間、有給休暇の取得状況、労基署に寄せられた法令違反の状況。厚生労働省の過労死ゼロ緊急対策について説明がありました。